『居酒屋』

少し前にゾラの『居酒屋』を読み終えて、これは中々面白いなと思ってからメモ書きくらいはしておこうと思ったまま放ったままになってしまっていた。例えばトルストイの長編のような偉大な小説を読んだ直後は、その力に圧倒されて椅子の背に身体を押し付けら…

雑記(2022年下半期に読んだ本)

恒例となりつつある半期ごとの読書録だが、今年は良い小説をたくさん読むことができた。今年の下半期は英・米文学を中心に読むというのをテーマにしていたが、読んだのは以下の8作品。『ミドルマーチ』(ジョージ・エリオット)(1~4) Twitterでも何度も…

『ミドルマーチ』

私のような海外文学を読むのが好きなだけの素人はどうしても、日本における評価や日本語訳の手に入りやすさというファクターに読書経験が影響されやすい。ロシア人が驚くほど日本にはドストエフスキー読者がやたら多いというように紹介・翻訳というフィルタ…

雑記(2022年上半期に読んだ本)

半年に一度の読書メモ。何を読むかについてそれほど厳密にテーマ設定しているわけではないものの、なんとなく今年はこの辺を読もう、今月はこの数冊を読もうというような方向性は持つようにしている。小説で言えば、最近は「今の自分がいる場所に近いもの」…

芸術に関する雑文(4)

こちらの続き rastignac.hatenablog.com論争の話に触れたが、そういえば「芸術とは何か」ということを巡る華々しい論争を現代においても追いかけることができれば、現在進行形で新たな形式が芸術が生み出される現場に立ち会うことができるはずである。しかし…

芸術に関する雑文(3)

こちらの続き rastignac.hatenablog.com審美的な判断力ということに関して、大学生の頃に初めて能を観にいった時に少し考えた(というほど大層な話ではなく、ぼやっと感じたという程度だが)ことがある。小さい頃にもしかしたら課外学習的な何かで観に行った…

芸術に関する雑文(2)

こちらの続き rastignac.hatenablog.comそもそもの問いと立て方として、岩波文庫のような「権威あるコンテンツ」を他の(サブカルのような)コンテンツとを対立させることからして意味がないのではという考えもある。文学作品や、あるいはクラッシックのコン…

芸術に関する雑文(1)

だいぶ前になるが、Twitterでとあるアカウントが投稿した、岩波文庫で一杯の本棚の写真が「つまらない本棚だ」と皆に酷評されていた。岩波文庫は数ある日本の文庫レーベルの中でもとりわけ歴史が長く、また収録されている作品も文学的評価の定まった作品ばか…

昭和の時代の流行りの本

Twitterにも書いたが、近ごろ酒を飲むと翌日の気分の落ち込みが酷い。二十代のころであっても、身体的な二日酔いと後悔や自己嫌悪のような気分の悪さはセットのようなものだったが、最近はちょっと自分でも心配になるくらいメンタルにくる。煙草にしろアルコ…

『ガラスの街』

一言に小説と言っても、少しずつ人によってイメージするものが異なると思う。多くの作品を読んできた本好き同士であっても、それまでの読書経験で形作られたそれぞれの異なる小説像があって、よくよく話してみると一方にとって当たり前なことが他方にとって…

ディストピア

代表的なディストピア小説と言われている、ジョージ・オーウェルの『1984年』(1949年刊行)とオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(1932年刊行)を立て続けに読んだ。オーウェルもハクスリーもイギリス人である。『1984年』の方は世界観の設定がか…

様々な読書

年が明けてから少し時間があったので読書が捗った。今年はなるべく早めに『テヘランでロリータを読む』を読みたいと思っていたのだが、章立てを見てみると第一章が「ロリータ」、第二章が「ギャツビー」、第三章が「ジェイムズ」、第四章が「オースティン」…

雑記 (2021年下半期に読んだ本)

少し気が早いが読みかけの本はいずれも年をまたぎそうなので、少し早いが恒例の読書記録の2021年下半期版を投稿する。今年の読書で最も自分にとって重要だったのは何よりプルーストの『失われた時を求めて』全14巻なのだが、予復習がてらその前後に関連する…

『失われた時を求めて』

『失われた時を求めて』は大学生のころに一度挫折している。それも第一篇「スワンの家の方へ」の第一部「コンブレー」を読み終えたところで早々に頓挫した。昨年岩波文庫から吉川先生の新訳が出てフェルメールの「デルフトの眺望」をあしらった美しい化粧箱…

雑記(2021年上半期に読んだ本)

小説は今年は『失われた時を求めて』を読み終えるまでは他に手を出さないと決めているので岩波文庫版でコツコツと読み進めている。昔ちくま文庫で挫折したのだが(つまり私の家には『失われた時を求めて』が2セットもある。)、岩波文庫の方は注記がわかりや…

雑記(2020年下半期に読んだ本)

投稿が読書記録ばかりになってしまっているが、この半年で読んだ本のメモ書き。 『会社はこれからどうなるのか』(岩井克人)岩井克人先生といえば『ヴェニスの商人の資本論』が有名だが、そちらは家の書棚になかったので、書棚にあったこちらを読んだ。「会社…

雑記 (2020年上半期に読んだ本)

自分がどの本をいつ読んだのかというのは意外とすぐに忘れてしまうので、読書記録がてら、簡単に2020年の上半期に読んだ本について書きたいと思う。そういえば大学生の頃は今は懐かしのmixiにブックレビューを載せていたから大体いつ何を読んだのか記録でき…

『日はまた昇る』

1 外国での思い出と言われて思い浮かぶものは人それぞれなのだろうか。私の場合、頭に浮かぶのが酒場の記憶であることが多い。酔っている時、周りの世界と自分が薄いガラスで隔てられていて、自分の見ている光景や聴いている音が他人事のように感じられるこ…

雑記

芥川賞受賞作品は滅多に読まないのだけれど、柴田翔の『されどわれらが日々』(1964年受賞) は読んだことがある。最近読み返したわけでもないので筋はほとんど忘れてしまったのだが、昨日ふと読後感だけ思い出した。ゲーテの『ファウスト』の講談社文芸文庫の…

『赤と黒』

1 『赤と黒』は高校生の頃、授業中机の下に文庫本を隠して夢中で読んだのを覚えている。退屈な授業ほど読書に専念できたのでむしろ楽しみにしていた。本に関しては物持ちがいいので15年ほど前に読んだ文庫本そのものをパラパラとめくりながら書いているが、…

『テレーズ デスケルウ』

1 普段あまり小説を読むのが好きだと人には言わないのだけれども、たまたま何かの拍子に文学が話題に上ったときには否応なく好きな小説は何かという話になってしまう。個々人の好き嫌いなど取るに足らない問題であって古今東西の言葉の芸術がどう発展してき…